「韓国」初日の出観光列車にイソウロウ
(全3部)

〜第1部 人気列車の仕込み作業〜


冬の韓国の定番ツアー列車、楽しい旅の舞台裏ににイソウロウする


↑大晦日の夜、街が迎春ムードに沸く中、鉄道現場はもくもくと作業を行います
 

東海岸を目指す韓国の冬季臨

 

日本と違い旧暦の正月(いわゆるソルラル)を祝う習慣のある韓国ですが、1月1日は韓国でも祝日となっており、ソウルでもカウントダウンイベントなどがあちこちで行われます。日本では1月1日は有名な神社仏閣に初詣に出かけるのが人気ですが、韓国では初日の出を拝むのが人気です。

そんな訳で年末年始には東海岸の海からの初日の出を見る為、首都圏から正東津・湫岩等の超人気海岸を目指すツアーの臨時夜行列車が多数設定されます。今回はそんな「韓国の成田臨(?)」のようなツアー列車の舞台裏にイソウロウします。


今回乗る列車、無窮花号・第4425列車
「湫岩ロウソク岩での御来光ツアー」専用臨時列車


今回イソウロウする列車は、旅行会社「KTX観光レジャー」主催の「湫岩ロウソク岩での御来光観光ツアー」のツアー客を乗せて走る臨時の無窮花号です。

ソウル東部のターミナル、清涼里駅を大晦日の夜21時50分に出発、南のターミナルである永登浦駅、ソウル郊外の水原駅、天安駅とツアー客を乗せて、五松線から忠北線、太白線、三角線経由で嶺東線、羅漢亭スイッチバックを下って東海駅へ。東海から三陟線に入って終着湫岩には明朝の5時30分に到着します。

ツアー客はここで下車して徒歩10分ほどにある海岸から初日の出を見て、午前中に湫岩駅から列車で天安、水原、永登浦、清涼里へと帰路に着きます。
 


イソウロウの始まりは水色の機関区

 

今回も関係各所から多大な御好意御協力を得て、車両基地からの密着取材です。4425列車はソウル列車事務所(水色車両基地)の客車を使用し、牽引機は隣接するソウル機関車事務所(機関区)でスタンバイ中です。

乗務事務所の前には全羅線で使用された腕木信号機が建てられ、歴史の証人の如く大切に保存されていました。
 

夜の水色の風景

 

ソウルの1大車両基地である水色は長距離のセマウル号・無窮花号のネグラです。KTX時代と言えど多くの列車がここを基点に韓国全土へと旅立ち、帰り着き、休息します。大晦日の今宵も、いつものように様々な列車が構内を行き交います。

(左上) 2003年に竣工したセマウル号車庫もすっかり新塗色が増えました。


(中段右) 最近は湖南線系統に電気機関車が投入され、水色でも多くの電機を見る事が出来ます。ちなみにソウル機関車乗務事務所では「EL組」と「長距離組」が電機を担当していますが、ELの拡大を踏まえ、全機関士が電気機関車の運転訓練中です。
 

我々の乗る機関車がやって来ました☆今回は7452号と7320号の重連仕業です。

 

いよいよ我々が乗り込む機関車がやって来ました。鉄道公社の主力機関車7452号と7320号のディーゼル機関車重連です。

4425列車の走る区間で非電化区間は東海〜湫岩のほんの僅かな区間ですが、臨時列車運用と言う事で架線下DLによる超ロングラン運転が行われます。

早速運転室

 

夜の冷え込む構内から早速暖かい運転室へ☆

今回の7452号と7320号はATP装備車で、運転席には速度計を模した大きなディスプレイが付いています。


(解説)韓国のATP

 

韓国鉄道公社では2006年初夏頃より信号システムにATPを導入する路線が増えてきました。それに伴い沿線の信号機がLED化され、車両にもATP搭載車が激増しました。ATPと言えば台湾鐵路局でもATP導入が進んでいますが、韓国鉄道公社でも国内メーカーにてATPの納入が進んでいます。現段階では最高速度は160km/h、指示される制限速度は精密な減速パターンの算出・速度照査は行わず閉塞区間の信号機に連動する物となっています。将来的にはTTXの投入に合わせて最高速度を200km/hとする為、ディスプレイの速度計画面の目盛りは240km/hとなっています。

(上右) ATPの速度超過警告画面。速度計の針が赤くなり警告音が発せられます。減速や確認の動作を怠ると自動で列車は停止します。
(下左) ATPは現在のところ、7100〜7500号ディーゼル機関車とセマウル号気動車を中心に設置が進んでいます。画像はセマウル号先頭動力車(168号:大宇製)に設置されたモニター
(下右) ATP未対応の路線を走る場合はATPの電源を落とします。ATP導入と共に速度計がデジタル化され、ATPをオフした場合は大きな赤い数字で速度を表示します。また、記録装置も電子化された為、従来運転室で鳴っていた速度記録計のカチカチと言う音は聞かれなくなりました。
 





(参考)
清涼里への
ルート

我々の乗り込んだ機関車は、機関区から引き上げ線に行き、客車留置線へと向かいます。

そこで客車を連結して京義線を南下。ソウル駅を通過し、回送線で京釜線をまたぎ龍山駅へ。龍山駅の京元線(龍山〜徳沼電鉄)ホームを通過し京元線に入ります。

漢江沿いに京元線(龍山〜徳沼電鉄)を走り清涼里駅に到着します。


19時35分、入換開始!

 

構内移動の無線指示と共に総重270tの機関車が静かに動き出しました。本線の通勤列車の横をかすめて機関車は引き上げ線へと入ります。

客車を迎えに行く

 

後方の入換信号機がまばゆい青になると機関車は低いエンジン音でバックを始めます。

機関車は今日・明日と苦楽を共にする客車を迎えに行きます。

客車を連結

  

重連の機関車は入換係さんの誘導でゆっくりと巨体をうねらせて客車へと近付いて行きます。

連結完了〜!

 


「あと2m…1m…」衝撃も無く無事に客車の連結が完了。機関車と客車がしっかり手をつなぎました。

今回の清涼里までは4425列車の出庫列車「H4425列車」を名乗ります。重連の機関車に8両の客車と電源車が付いて11両編成。客車は定期運用からは離脱した「旧特専」(セマウル格下げ車両→セマウル時代は全車特室編成"全特"と言う豪華編成に使用された為、「用車」と呼ばれる)が任務に就きます。
なお、韓国の列車には列車編成・車両性能・路線条件に応じて速度種別が設定されています。日本の物と少し違い、おおまかな平均速度を指します。今回のH4425列車はポジョンの7100、平均速度50km/hのダイヤ設定となっています。今回は重連にて牽引定数を38.0とし、8000号電気機関車(単機牽引)での同速(ポジョン/8000)の37.5とほぼ同等の牽引定数を確保しています。

 

電源

1号車

2号車

3号車

4号車

5号車

6号車

7号車

8号車

DL2

DL1

 

 

99276

11208

11246

11214

11226

11228

11225

11238

11212

7320

7452

清涼里→

 

電源

化粧室

 

 

 

放送

 化粧室

 

化粧室

水色

栄州

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機関区

機関区

 

H4425列車
水色出庫線・京義線・京釜線・京元線経由
 速 度 種 別  ポジョン/7100 (普丁:平均速度50/牽引定数38.0)

水色車両基地(20:10) → 清涼里(20:48)

 

(参考)Korailの速度種別一覧

韓国語読み
平均速度

トゥッカッ
(特甲)105km/h

トゥグル
(特乙)100km/h

トゥッピョン
95km/h

トゥクチョン
90km/h

クプカッ
(急甲)85km/h

クブル
80km/h

クッピョン
75km/h

クプチョン
70km/h

ポガッ
65km/h

ポウル
60km/h

ポビョン
55km/h

ポジョン
50km/h

ホンガッ
45km/h

ホヌル
40km/h

ホンビョン
35km/h

ホンジョン
30km/h

ファーガッ
25km/h

ファーウル
20km/h

ファービョン
15km/h

ファージョン
10km/h

※KTXの速度種別は一律コーソッ(高速:平均速度185km/h)となります
貨丁より更に低速で走る列車に貨1・貨2と言う種別も用意されています。

(おまけ)拙HPに登場した主な列車の速度種別

・慶全線統一号1560列車(CDCにイソウロウ・第1部) → 貨甲/CDC
・京釜〜長項線セマウル号1053列車(SAE.MA.UL The LIVE) → 
特乙/DHC
・京義線セマウル号1083列車(京義セマウルにイソウロウ) 
    → 
急乙/DHC(ソウル〜花田) 急丁/DHC(花田〜臨津江)
・長項〜京釜線無窮花号350列車(リュウ・ギユンのある一日-3,LAST)
    → 
急丙/7100(長項〜天安) 特丁/7100(天安〜ソウル)
・全羅線無窮花号1525列車(全羅線無窮花号にイソウロウ) → 
普丙/4400

※速度種別の後に代表的車種が付きます
例)
DHC=セマウル号気動車  8200=8100,8200号電気機関車
7100=7000〜7400型機関車 NDC=無窮花号用気動車
 


H4425列車組成完了!出発を待ちます

 

重連機関車にかつての花形客車を従えて我々の列車は出庫を待ちます。

20時10分、出発許可

 

やがて無線合図と共に出発信号が注意現示へ。いよいよ出庫です!

前照灯の光を遠くにかざし、列車はゆっくりと動き出しました。
 

京義線を走る

 

列車はゆっくりと夜の京義線に合流。乗客の待つ清涼里へと向かいます。

年の瀬の新村

 

通い慣れた道、前方には新村駅の駅ビルが見えて来ました。

 

新村駅〜ソウル駅通過

 

新村駅(1番)を通過。速度を落としながら最徐行でソウル駅を通過します(6〜9番)

(9番)ソウル駅は構内運転の扱い。はるか右で入換信号機が青く輝き、我々の通過を見守ります。

 

大韓民国の鉄道の玄関をノンストップ

 

列車はゆっくりとソウル駅を通過します。日本で言えばまるで東京駅を通過するような気分です^^ゞ

 

ソウルからは京釜線。通称「3本線/両方向線」を行く

 

ソウルを過ぎると進行方向向かって一番右の線路を走ります。この線路は「両方向線」と呼ばれるものです。京釜線・ソウル〜龍山間の長距離線には上り本線(上1線)、下り本線(下1線)と別に2本の双方向の単線が敷かれ、日本のような方向別の複線と台湾のような双単線の複線により複々線を成します。またそれに寄り添って地下鉄1号線より伸びる電鉄線の複線で総勢3複線となります。
 

電鉄南営駅を通過

 

左前方には韓国撮り鉄の皆様におなじみの南営駅が見えて来ました。

ホームへの階段の屋上の普段見えない所に水色と緑のステキな駅名ネオンが^^;


 

南営〜龍山

 

列車は両方向線から龍山駅の構内へと入ります。スロープを登って京釜線を越えると(7〜9番)龍山駅の駅ビルが見えます。

龍山駅接近

 

龍山駅に接近。隣は龍山始発の電車が引き上げ待機する場所です。
 

20時15分、龍山駅通過

 

列車は軽い汽笛で龍山駅の2番線を通過します。このホームは普段、東仁川や天安へ行く急行電車、KTXの光明駅へ行くシャトル電車などが発着します。

年の瀬のターミナルを通過

 

年の瀬の通勤電車のホームを自転車ほどの速さに徐行しながらアメリカンスタイルの重連ディーゼル機関車が通過します。「皆様良いお年を〜^^)/~」

龍山から京元線

 

列車は京元線に入ります。京釜線と別れて左にカーブすると死区間(デッドセクション)になります。我々はディーゼルなので死区間は関係無いかと思いきや、速度制限でノッチオフ^^;

(8〜9番) 漢江大橋に続く漢江路の下を行きます。このめがね橋状の部分は建築限界すれすれで、架線に送電が出来ないこの区間を利用して死区間が生まれたとの事です。
 

二村〜西氷庫

 

最後の客車が漢江路の下を通過し終えると列車は加速します。夜の二村駅(2番)、西氷庫駅(7番)と通過。私鉄沿線をJRのDE10型機関車が激走しているかのような(日本人的には)不思議な前方風景が続きます。

不思議な景色に見とれていると運行指令から無線で我々を呼ぶ声が。

指令 「H4425列車〜、H4425列車〜、指令です。どうぞ」
H4425機関士 「はい、こちらH4425機関士どうぞ」
指令 「清涼里駅構内の列車調整の為、往十里駅で待機、後続の電鉄電車を先行させます。H4425列車は待避線にて待機してください」
H4425機関士 「了解」

年末の清涼里駅長距離ホームは臨時列車が多く、ホームが満杯のようです。我々の列車も清涼里駅のホームが空くまで1つ手前の往十里駅で待機することになりました。
 

漢江べりに出る

 

西氷庫を通過すると右手にはソウルの中心を流れる漢江が見えてきます。我々の走る線路の右隣には漢江とともに江辺北路の高架道路が寄り添います。

江辺北路はこの時間でも東向きが夜の渋滞中。列車は渋滞の車列をすいすいと追い抜いて行きます。
 

漢南〜玉水〜鷹峰

 

列車は漢南(1,2番)、3号線乗り換えの玉水(6,7番)、鷹峰(9番)と漢江沿いの駅を通過して行きます。

(2,3番) 15分毎に走る通勤電車とすれ違い。かつて龍山〜城北を「京元電鉄線」として走った電車は2005年12月から「龍山〜徳沼電鉄」と運行系統・名称を変更しました。

※ 龍山〜徳沼電鉄 = 京元線/龍山〜清涼里 + 中央線/清涼里〜徳沼 ですが通常「中央電鉄線」とも呼ばれます。

 

往十里駅接近

 

鷹峰駅(1番)を通過すると前方の信号が減速現示。列車は速度を徐々に落とします。先ほどの運行指令に従って往十里駅で列車退避をする為に減速します。

 

20時38分、往十里到着

 

列車は駅ビル工事の進む往十里駅へ到着。後続の通勤電車を先行させるため、本線の信号が進行現示に。我々はしばらくここで待機します。
 

後続電車を見送り、出発

 

後続の徳沼行き電車を見送って我々の列車も往十里駅を出発。始発駅となる清涼里駅を目指します。
 

清涼里駅接近

 

走ること数分、遠くに清涼里駅の灯が見えて来ました。
 

21時1分、清涼里駅到着

 

清涼里駅の構内に入り、視界が開けてきたら列車は清涼里駅に到着します。
 

4425列車、機回し開始







列車の到着後、すぐに機関車が切り離され、機回しの準備に入ります。連結器開放の合図と同時に入換信号機が開通現示となります。


21時5分、機回し開始

 

我々の機関車は客車から離れ、ゆっくりと引き上げ線へと入ります。清涼里駅から300m程走り、機関車は停止。ライトを消して方向転換します。

 

重連機の方向転換




方向転換のため、後部機関車だった7320号が今度は先頭になります。機関士さんはあわただしくステップを歩き、7320号の運転室に入ります。カメラはこのまま副機関士さんと7452号のキャブでお留守番です。


21時10分、7320号を先頭に機回し

 

入換信号機が開通になり、さっきまで先頭だった7452号は補機として機回しが開始します。連結されている客車の横を通り機回し線の上で停車

(8番) 機関士席からの風景。バック運転ながらまるで機関士気分です(*^^*)

通勤電車を見ながら待機

 

龍山行きの通勤電車を先行させるため、機関車はしばらく待機します。

やって来たのは最新型の通勤電車、交流専用ver.のマティズです。

入換再開

通勤電車を見送って機関車は龍山方面の引き上げ線に引き上げます。
「あ〜寒いねぇ〜」と7320号から機関士さんが戻って来て(6番)、再度方向転換。入換係さんをデッキに乗せて(8番)客車を迎えに行きます。

縁の下の力持ち

 

冬のソウルの夜は氷点下の世界。暗くて寒い過酷で危険な中でも入換係さんは機関車の脇で安全に我々を誘導してくれます。

我々の見えない所でこういった多くのスタッフに支えられ列車が走っていることを実感する瞬間です。

客車接近

 



そして客車との再開。機関士さん・副機関士さんの操縦スタッフと入換係りさんの誘導スタッフ双方が息を合わせるようにゆっくりと客車に近付きます。



 

21時35分、客車連結

緊張の瞬間が続きます。入換係さんの誘導信号灯に息を合わせながら衝撃も無く連結完了。阿吽の呼吸で華麗に作業を終えます。
 

入換完了、お疲れ様でした〜☆

 

安堵に一息つく間もなく、列車の出発準備に掛かります。
 


さぁ!湫岩への旅が始まります!

2006年最後の夜、車両基地を出発した臨時団体急行列車はすべての準備が完了しました。我々の列車はこれから約500名の満員の乗客を乗せて、2007年最初の日の出を見に行きます。

第2部に続く (CLICK!)
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