「韓国」京義線セマウル号にイソウロウ

〜前編 臨津江ライナーの旅〜


2006年11月、ダイヤ改正で生まれた新しいスタイルの「セマウル号」にイソウロウする


↑京義線の定期列車としては初の試みとなるセマウル号。
車両は現代'87年型(いわゆる101系)が用いられます。
 

京義セマウル号の出発地、ソウル駅

 

韓国鉄道を代表する駅、ソウル駅は京釜、湖南方面の大動脈を走る列車でいつも賑わっています。大きな屋根に覆われたホームを彩るKTXや新塗色の列車たち…それに対照するように京義線は片隅のホームから1時間に1本の通勤気動車がひっそりと発着する地味な路線でした。

かつては大陸への夢を運んだ京義線も今ではソウルの郊外路線。南北鉄道連結もいまいち足踏みが続く中、2006年11月の改正で久々に明るいニュースが。それがソウル〜臨津江間のセマウル号の新設でした。

と言うわけで、今回はこのセマウル号に同乗し、臨津江往復のイソウロウです〜☆

(中上) ソウル駅のホームに佇む新塗色のボンゴ(7000型機関車)。KTXやセマウル号にも負けない存在感で今日も遥か釜山の地を目指します。
(右下) 駅前の交差点に姿を現した2階建てバス。東アジア有数のバスの街、ソウルの新しい名物となるか今後に注目です☆
(右上) 改札前に最近出来た「Train Shop」。鉄道グッズ専門店!?と期待して入りましたが、ごく普通の名産品やお土産のお店でした^^;


今回の主役!11番線に止まるは京義線・臨津江行きセマウル。通称「臨津江ライナー」

 

京義線列車が発着するソウル駅11番ホーム。臨津江を目指すセマウル号1073列車はホームで待機中でした。京義線のセマウル号はソウル駅とDMZ間近の臨津江駅を平日のみ2往復のダイヤが組まれています。まだまだ知名度が低いこの列車ですが、韓国の鉄道ファンの間からは「臨津江ライナー」と呼ばれ親しまれています。
 

臨津江ライナー、出発待機中

 

ホームに待機中のセマウル第1073列車をしばし観察します。

「臨津江ライナー」こと京義線セマウル号はソウル〜臨津江52.0Kmを1時間少々で走破します。運賃は本来7,200wの所を利用促進のため一律5,000w(約650円)の特例運賃が適用されています。
従来の各駅停車である通勤列車の運賃が1,600w(約210円)ですので、決して安くはありませんが、鉄道公社ではビジネス客を中心に利用を促進したいとしています。


(右上)京義線セマウル号のサボ。従来無かったソウルの漢字表記が「
首爾(の簡体字)」とされています。最近はソウルの漢字表記に「漢城」では無く、中国語で「ソウル」の発音に近い「首爾」がよく用いられます。

 

そして運転席。お世話になりま〜す☆

 

今回も関係機関の多大な御好意御協力により、運転室にてイソウロウを行います。

冬の寒いホームから暖かい運転室に入ってビックリ!助手席には若い女性機関士さんが座っています。この女性機関士さんは現在セマウル号気動車の運転を学ぶために水色乗務事務所のベテラン機関士さんと共に乗務研修を行っているとの事です。「電気・物理・法令」など韓国でも大変難しい試験とされる鉄道機関士試験。最近は優秀な女性の進出が進み、従来男だらけだった乗務事務所の雰囲気も明るくなって来ました。

「比較的ダイヤに余裕の有るこの列車は研修にも丁度良い列車です。今日はまず私が往復運転しますので、ディーゼル機関車とはまた違う感覚を学んで下さい。」
セマウル号の大ベテランである本務機関士さんのレクチャーと共に京義線セマウル号の旅が始まります♪
 

ダイヤをチェック

 

今回のダイヤを。ソウル14時25分にを出発した列車は、一山、金村、ムン(→さんずいに文)山、と停車し、終点臨津江には15時31分に到着します。京義線の路線最高速度の90Km/hと停車駅数を踏まえると表定速度44.9Km/hは少々性能を持て余していますが、単線で交換設備の少ない京義線故に仕方の無い部分もあるようです。


14時25分、1073列車、ソウル発車!

 

出発1分前、出発信号が注意現示をすると女性機関士さんが「11番、出発、注意」と点呼をします。程なく扉が閉まり、「1073列車、ソウル駅発車」との無線連絡が。本務機関士さんは「ソウル駅発車」の点呼と共に静かにノッチを入れます。

1073列車、臨津江に向けて

 

定刻にソウル駅を出発した列車は駅構内を徐行運転で進出します。女性機関士さんはサイドミラーで後部を確認「後部良好」と点呼します。

さあ、1時間少々の往路の旅が始まります。

西小門踏切を通過

  

列車は西小門踏切に差し掛かります。ベテラン機関士さんも神経を使う韓国で最も忙しい踏切。列車は最徐行で安全に通過して行きます。

速度を上げて

 


西小門踏切を無事に越えると列車は速度を上げて行きます。後方で唸るエンジンも今日はご機嫌なエグゾーストノートを奏でています。

14時31分、新村駅通過

 

街に鎮座する山を貫く数本のトンネルを越え、列車は速度を上げながら新村駅を通過します。

(5番,6番) 大きな駅ビルの前にちょこんと保存された新村駅の旧駅舎。日本時代に建てられた美しい瓦屋根の駅舎は壁や扉もきれいに塗り直され、往年の汽車駅の雰囲気を今に伝えます。

スピードに乗って

 

新村駅を後にした列車はぐんぐん加速。90Km/h前後の速度を維持して駆け抜けます。本務機関士さんのきびきびした信号点呼と女性機関士さんの優しい声の信号点呼が運転室に響きます。それにしてもこの2方、カメラの望遠でも見つけづらいほど遠くにある信号機をいち早く正確に点呼する様はさすがプロ!といった感を受けます。

加佐駅〜水色駅

 

列車は速度を緩めることなくスムーズに加佐駅(3番)、水色駅(7番)と定刻に通過します。
(4番) ATP導入を機に信号機の進路表示機もハングル表示が増えてきました。進行現示の下の表示は「京義」
(8番) 現在の水色駅舎。この少しソウル寄りに大きな電鉄駅が建設中で今は仮駅舎にての営業です。

都心を抜けて

 

1073列車はビル群をバックに郊外へと入ります。

 

花田駅通過〜非電化京義線へ

 

列車が減速をはじめると前方には花田駅が見えて来ました。ここで線路はKTX基地の入庫線と別れて単線非電化の京義線へと入ります。

 

江梅駅〜幸信駅

 

壮大なKTX高陽基地入庫線の高架橋、そして複線電化工事中の京義電鉄線の路線と複雑に絡み合いながら、列車は江梅駅〜幸信駅と通過します。

(4番,5番) 江梅駅を通過。江梅駅〜幸信駅の間は800mしか無く、すぐ背後に工事中の幸信の電鉄駅が見えます。
(7番,8番) 幸信駅を通過。左手には広大なKTX高陽基地が見えます。

 

一気にローカルムード

 

幸信駅を過ぎると単線非電化の京義線は一気にローカルムードを醸し出します
 

14時44分、陵谷駅に運転停車

 

女性機関士さんが「陵谷、場内注意、3番」と点呼をすると列車は減速を始めました。本来この駅では対向列車であるソウル行きの各駅停車(通勤列車)が退避、我々は本線を通過する予定でしたが、定刻より2分早着したのと、対向列車に遅れがある為、我々の列車が先に着いてしまいました。列車は待避線に入線し、対向列車を待ちます。


 

CDCを待つ

 

「1073列車、こちら陵谷駅。2026列車は3分遅れです」と無線連絡が入ります。この日は京釜線の列車で遅れが発生、ソウル駅での乗り継ぎ客の為に、接続する京義線列車もソウル発車が遅れ、その影響でダイヤに乱れが出ていました。

「CDC来ないですね…」

「昔だったら接続の無窮花が遅れようが京義線は京義線で(接続を取らずに)さっさと定刻で出発してしまったからね…最近はサービス向上でちゃんと接続待ちを取るようになったんだよ」

対向列車を待つ間、談話が続きます…

対向列車到着

 

待つこと4分、対向列車のソウル行きCDC(通勤気動車)がやって来ました。女性機関士さんの「出発進行」の点呼と共に、列車は軽く汽笛を鳴らして出発です。
 

14時49分、陵谷駅発車〜大谷駅通過

 

列車は3分遅れで陵谷駅を発車。今は実質貨物輸送線となった郊外線に別れを告げます(5番)。前方に一山線の高架が見えたら大谷駅(6,7番)。通過間際に3号線直通のGECチョッパー電車と出会います。

郊外を走る

 

寒空の下、列車は畑に囲まれた線路を軽やかに走ります。手前の農作業小屋の遠く向こうにかすむ一山新都心のビル群がいかにもソウルの郊外の風景と言った感じです(^_^)

谷山駅〜白馬駅〜一山駅

 

列車はホームが建替えられた谷山(1,2番)、白馬(4,5番)を通過。進行方向右手では京義電鉄線に生まれ変わるべく複線電化の路盤工事が真っ盛りです。

(8,9番) 列車は一山駅に進入します。

 

14時59分、一山到着

 

遅れを1分取り戻し、2分遅れで一山駅に到着しました。この日の降車客は4人。

「お客さんが4人降りましたよ〜☆」
「4人か…ちょっと寂しいねぇ〜だけど、たとえ一人でもお客さんが利用してくれるならば最善を尽くすのが我々鉄道従事者の任務だ」

生まれたばかりの新系統の列車。まだ乗客が定着しない試行錯誤は付き物。ドンマイです^^;;

ちなみにこの列車は韓国の鉄道ファンの間でも「ソウル駅よりアクセス便利な龍山発着にして、休日も運転すれば、もっと多くのお客さんが乗るはずだ」と活発な議論がなされています。

15時1分、一山発車!

 

一山で2分停車し、列車は3分遅れで一山駅を出発。のどかな郊外をひた走ります。炭ヒョン(→山へんに見)駅(5番)、雲井駅(7番)とベッドタウンの駅を通過して行きます。
 

15時13分、金村駅到着

 

列車は遅れを2分取り戻し、1分遅れの15時13分、金村駅に到着しました。ここでも対向列車との交換があり、ホームではソウルに行く乗客が多数待っていました。

(6番) 女性機関士さんは降車客が気になる様子でサイドミラーを見つめています「あっ、嬉しい。6人降りてきた☆」

 

対向列車待ち

 

遅れているCDCを待ちながらレクチャーが続きます。

「このPP動車はブレーキが良く効くが、列車の速度が130Km/hを超えると効きが悪くなるんだ。車両の最高速度は150Km/hだが、むやみに速度を上げると前方の曲線や信号に減速が間に合わなくなる事もあるから注意が必要だ」

車両の持つ癖やディーゼル機関車との違いとためになる講義が続きます。

講義の最中、列車無線が。「1073列車、2028列車(対向列車)金村接近します」

さあ、出発の時間です。
 

15時21分、金村出発

 

対向列車のCDCが7分遅れでやって来ました。セマウル1073列車は7分遅れの15時21分、静かに金村駅を後にします。
 

ムン山へ向けて

 

列車は電鉄工事区間と併走、ムン山駅を目指して走ります。工事の安全のため列車もスピードを控えて走ります。
 

月龍〜坡州駅

 

程なく列車は並行する高架線の下を走りぬけ、徐々に速度を上げて行きます。

(4,5番) 月龍駅を通過。電鉄線ホームのお洒落な屋根の輪郭が見えています。

(8番) 坡州駅。ホームが一本にテント屋根のこの駅もまもなく立派な電鉄駅に生まれ変わります
 

気分は複線電鉄

 

坡州駅を過ぎ、工事区間の中を暫く走ると架線柱と右手に真新しい線路が現れます。ここからムン山までは複線電化工事もほぼ完了といった感じです。

ムン山電動車事務所





列車の前方にはムン山電動車事務所が見えて来ました。京義線が電鉄化した際、ここは重要なネグラとなります。


15時31分、ムン山到着

 

工事区間の徐行運転が響き、列車は8分の遅れでムン山駅に到着します。

 

ムン山駅停車中




ムン山駅では8人の降車客がありました。買い物客、所用を済ます人、軍の兵士さんと客層も様々です。


15時33分、セマウル第1073列車、ムン山発車!

 

列車は静かにムン山駅を発車。次は終点、臨津江駅です。

(8番) かつての「鉄道中断点」の記念碑。今でも車窓に見ることが出来ます。

臨津江ライナー、ラストスパート

 

列車は快調に臨津江駅を目指します。雲泉駅(2番)を通過し、臨津江駅(6〜9番)に到着したのは定刻の7分遅れ、15時38分でした。

臨津江駅

終点臨津江駅に到着。DMZ観光の窓口として有名な駅ですが、DMZ観光の受付は1時頃で終了、駅には静かな時間が流れていました。

列車入換準備

 

ソウルから1時間少々の旅を終えたせマウル号。一段落かと思いきや、運転室では忙しく無線交信が行われています。

ホーム1本の臨津江駅には列車が長く停車することが出来ないため、折り返しの発車時間まで列車を留置線に押し込みます。



 

15時42分、転線作業開始

駅からの無線と駅員さんの手旗信号で手早く留置線への転線作業が行われます。列車を一度都羅山側へ移動させ、ポイントを切り替えた後、留置線に入線します。

(2番) 女性機関士さんもサイドミラーと手旗信号の目視確認を行います。

(4番) 15時45分に臨津江に到着する都羅山からの通勤列車。この日は我々の列車が遅れた為、もう視界の先で乗客を乗せたまま我々の入れ替えを待っていました。

(5番,6番) 逆転機を後進に投入し、サイドミラーと手旗信号を見ながら列車を後退させます。

(7番) 「あと1両、あと5m…3m…停止」女性機関士さんの合図で列車は停止。待たせていた通勤列車を迎え入れます。
 

入換完了、お疲れ様でした〜☆

 

通勤列車の到着を見届けて、列車を降ります。機関士さんはおよそ30分ほど休憩した後、セマウル1074列車として再度ソウルへ向けての運転が待っています。

ひとまずお疲れ様でした〜☆帰路もよろしくお願いします!
 

京義線セマウルの旅は続く

臨津江駅でCDCと並ぶセマウル号気動車。初期型のセマウル号とは言えど、CDCと並んでも古さを感じない風格は短距離特急としては少々持て余し気味の印象すら受けます。

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